振袖の仕立てに込められた思いと工夫

                        着物は洋服に比べると「高価」なイメージがありますよね。
使われる素材が「正絹(しょうけん=シルク100%)」の場合が多いことや、反物を織ったり染めたりするのに、貴重な職人技が使われているということもあります。
最後に反物から美しい着物の形に仕立ててくれるのが、和裁士さんです。
浴衣やカジュアル着物にはミシン仕立ても多くなりましたが、振袖など正絹地の高級な着物は今でも手縫いが主流です。
着物がどのように仕立てられているのかがわかると、振袖にもっと愛着が湧いてきますよ!

>>「和裁」とは?
■「和裁」と「洋裁」の違い
■和裁は「直線裁ち」
■和裁は「手縫い」
>>和裁士さんのここが凄い!
■手仕事の美しさ
■細かな配慮とテクニック
■どうして着心地がいいの?

「和裁」とは?

                   

■「和裁」と「洋裁」の違い

「和裁」や「和服」という言葉が生まれたのは、日本人が「洋服」を着るようになった明治期以降のことです。
もちろん、「和裁」の技術はそれよりずっと以前から受け継がれてきたものです。
明治期以降になると、「洋服」や「洋裁」と区別するために、「和裁」や「和服」と呼ばれるようになりました。
着物(和服)を仕立てる「和裁」には、洋裁にはない特徴がたくさんあります。
・パターン(型紙)を使用しない
・直線裁ち・直線縫い
・余り生地を出さない(縫い込む)
・手縫い
・縫い目が目立たない

■和裁は「直線裁ち」

洋服は立体的な身体にフィットするように、パターン(型紙)を製図してから、生地に写して裁断します。曲線を多用した複雑な形に裁断するので、残り生地は他の用途に使いにくく、捨ててしまうことになります。
最近のアパレル業界では、余り生地のリサイクルなど、繊維廃棄物を減すための試みがなされているようです。
一方、着物の場合は「直線裁ち」が基本です。単純な四角のパーツに裁断するので、捨ててしまう余り生地は出ません。
幅40cm弱で1反12メートル(振袖用なら16メートル以上)もある長い反物は、「身頃(みごろ)」「衽(おくみ)」「袖(そで)」「襟(えり)」などのパーツに裁断されます。
昔は、今では考えられないほど、布が貴重でした。余り生地が出にくい和裁の裁断方法は、シンプルかつ理にかなっていて、昔の人の知恵に感心させられてしまいます。

                   

■和裁は「手縫い」

学校の授業で「運針」をやったことがある!という方もいらっしゃるかもしれません。針目を揃えてリズムよく縫っていくには、かなりの練習が必要ですよね!
和裁士さんぐらいの達人になると、目にもとまらぬ速さで縫ってしまいますが、人の手で着物を一枚縫うのはやはり大変な作業です。
最近では、縫製代を安く抑えるために、ミシン仕立ての着物も増えました。ミシン仕立てには、手早く作れて強度が高いというメリットがあります。
それでも、振袖など高級な着物の仕立てはやはり「手縫い」が良いでしょう。「手縫い」の着物には、仕立て直しができるという大きなメリットがあります。

和裁は「手縫い」

生地を大切にする「和裁」は、何度も仕立て直すことを前提としています。
着物が日常着だった頃には、季節ごとに裏地をつけたり外したり、綿を入れたりしたそうです。
現代ではそこまで頻繁に仕立て直すことはありませんが、汚れてしまった部分を隠すためにパーツを入れ替えて仕立て直すこともできます。
また、特に振袖のような高級な着物は、世代を超えて受け継がれることも珍しくありません。
着丈や身幅などの寸法は着る人によって異なりますが、余分な生地は、脇、袖の縫い代や、内揚げの中などに縫い込まれているので、必要な箇所だけ解いて、サイズ直しができます。すべての縫い目をほどいて裁ち目を縫えば(「端縫い」といいます)、元の反物の形に戻ります。洗い張りをして本格的に仕立て直すことも、羽織や帯などに仕立て替えることも可能です。
ミシンは太い針が真上から刺さるため、針穴が残って生地が傷み、仕立て直すことはできません。
手縫いの場合は、細い針を斜めに入れて縫うので、生地が傷みにくく、仕立て直しが可能なのです。手縫いの着物は確かに高価ですが、長い目で見れば実はお得ともいえるでしょう。

和裁士さんのここが凄い!

■手仕事の美しさ

「和裁」では、なるべく縫い目を見せない工夫がされています。
和裁の基本的な縫い方は、「ぐし縫い(並縫い)」です。生地どうしを中表にして「ぐし縫い」で縫い合わせた後は、縫い目の横に2mmほどの隙間をあけて、縫い代を倒します(和裁用語で「きせ」と呼びます)。
「きせ」がかかったところを表側から見ると、縫い目は「きせ」の下に隠れています。
お手元に着物があったら、身頃と衽(おくみ)の間や、脇縫い、襟など、どこでもよいので、縫ってあるところをめくってのぞいてみてください。「きせ」の下にきれいに揃った縫い目の糸が見えますよ!

手仕事の美しさ

表側に縫い目が出る場所もありますが、「くけ縫い」という和裁特有の縫い方をするなど、縫い目が目立たないようになっています。
ちなみに、留袖などでは、きれいに揃った縫い目をわざと見せる縫い方もあります。和裁士さんの高度な技術で、襟元などに極めて細かいぐし縫いを施します(「ぐしじつけ」と呼びますが、取らずに着用します)。黒留袖に白糸で施された「ぐしじつけ」はとても美しく、格調の高さを感じさせます。

■細かな配慮とテクニック

着物の仕立てには、和裁士さんの熟練の技術や細かな配慮が随所に生かされています。
振袖など、袷(あわせ)の着物の裏側には、白い胴裏地と色のついた八掛地が使われます。着物を縫うときには、表地用の糸、胴裏地用の白糸、八掛地用の色糸を使い分けて縫います。表地が複数の色に染め分けられている場合には、表地の糸を使い分けることもあります。
袷(あわせ)の着物では、袖口や裾に「ふき」を出し、裏地が少しだけ見えるようになっています。
3~4mmほどの「ふき」は、幅を綺麗にそろえるだけでなく、芯を入れてつれることもゆるむこともなく縫ったり、両端でふきが自然に消えるように縫ったり、とても高度なテクニックが必要です。
襟や衽(おくみ)の内側を見ると、裏地が表地から2mmほど入った位置に縫い付けられており、表側からは見えないようになっています。
和裁士さんは、このように1mm単位の調整をして、仕上がりが美しくなるように縫ってくれています。

細かな配慮とテクニック

■どうして着心地がいいの?

手縫いで縫った着物は、縫い目に適度な「遊び」ができるので、身体によく添って着心地が良いのもメリットの一つです。
手縫いの着物は、きれいにまっすぐ縫ってあっても、機械的な冷たさがなく、どことなくふっくらと優しい印象ですよね。
それだけではありません。
着物はある程度決まった「標準寸法」を基に仕立てられますが、和裁士さんは着る人の「寸法表」をもとに、細かな調整をして着やすい形に仕上げてくれます。
多少サイズが違う着物でも、うまく着付ければ着ることができますが、やはりマイサイズで仕立てた着物の着心地にはかないません。着付けも楽で着崩れしにくいのもメリットです。
手縫いの着物を手に取ると、和裁士さんが一針一針丁寧に縫ってくれた「手仕事」の温かみが感じられますね!

どうして着心地がいいの?

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[いせやグループ・ファーストコレクション 広報担当 高橋]

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